僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「それより葵咲(きさき)、僕に何か隠し事してない?」

 じっと葵咲ちゃんの目を見つめてそう言ったら、僕からわざわざ視線をかわすようにして、「ごめんね、レポートの提出が間に合いそうにないだけだから」とか白々しすぎるだろ。

 最近、葵咲ちゃんから今まで嗅いだことのない甘い香りがするんだ。
 決して嫌なにおいじゃないのに、一緒にいる誰かの香りが移っているのかも?とか思ったら、途端その香りは僕にとって不快なものになる。
 僕の大学の同期にも、いつもお菓子みたいに甘い香りを(まと)った(ヤツ)がいた。だから、甘くて美味しそうな香りだからって、その芳香が女性のものとは限らないだろ?

 ――要するに、僕は不安でたまらないんだ。

「葵咲さ、レポートやるとき、いつもなら図書館(うち)に来るけど、今回はそれもないだろ? 一体どこでレポートやってるの?」
 言えば、「グループ発表だから、メンバーの家に集まってるの」って。
 ――メンバーって誰だよ?
 口先まで出かけた言葉を、僕は懸命に飲み込んだ。
 そこまで干渉したらやりすぎだ。
 
 でも――。メンバーって……みんな女の子だろうか? まさか男はいない、よね?
 もしも葵咲ちゃんが男子学生と一緒に遅くまでレポートをやっていたりしたら……僕はきっと嫉妬で彼女を閉じ込めてしまう。
 だからお願い。僕を安心させて?
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