僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「き、葵咲(きさき)っ、もしかして……泣いてる、のっ?」

 理人(りひと)がオロオロとしたような声を出す。
 不謹慎だけど、彼に心配されていると思ったら、少しずつ心が落ち着いてくる。

「だって理人、私のこと、避けてる……」

 途切れ途切れで絞り出すみたいな声音でそう言ったら、「ちっ、違っ」と声がして。次いで(うかが)うように「……葵咲、……えっと……僕のこと、笑わない?」って不安げな声。

 私がどうして理人を笑うと思うんだろう。

「――? 笑われるようなこと、してるの?」

 笑わないよって言うのは簡単だったけど、もしそう言って笑うのを我慢できないようなことだったら困る……って思って。
 ずるい私は安全策を講じてしまう。

「う……。多分……。バカなことしてると、思う……。それこそキミがやるのは素敵だけど……僕がやったらダメなやつだから」

 え?
 何それ。

「わけ分かんないよ理人。とりあえずこっちに来て? 近くで話そう? 半日……っ、離れてたのに近付いちゃダメとか……(さび)っ、……納得出来ないよ」

 今、危うく「半日()離れてたのに近づいちゃダメとか()()()よ」って言いそうになってしまって、慌てて誤魔化した。

 やだっ。私、だいぶ理人に毒されてるっ。

 でもとにかく! そうなの!
 せっかく一緒にいられるのに離れてるなんておかしいんだからね?
 グダグダ言ってないでこっちに来ればいいのよ!
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