僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
「ね、理人(りひと)……何をそんなに警戒していたの?」

 私を抱きしめている理人の腕にそっと触れながら問いかけたら、「そ、それは……」って戸惑う声。

 本当何なの、この歯切れの悪さ。
 
 ギュッと彼の両腕に載せた手に力を込めて、
「隠し事はなしよ?」
 振り仰ぐようにして理人を見上げたら……
「バカなことをして……って笑わないでくれる?」
 ってまたその話?

 これってもう、嘘でも笑わないって言わないとダメなパターンかなあ。

 私は小さく吐息を落とすと、「うん、笑わないよう頑張る」って言って理人の腕をぽんぽんって叩いたの。

 セレがニャーンって言いながらそんな私たちの足にまとわりつくようにすり寄ってきて。

「分かった」

 と、理人がやっと観念したように私から腕を離してくれて、すぐ背後に立っている気配がしたの。
 前に回ってこないってことは、私に振り返って?って言いたいのかな。

 それとも少しでも時間稼ぎしようとしてるとか?

 私はどんな事態でも笑わないでいられるよう、大きく深呼吸をしてから、ゆっくりと後ろを振り返った。

「――?」
 ん? 別におかしくないよ?

 私の後ろには、エプロン姿の理人が立っていて、別にこれと言っておかしいところはない気がしたの。
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