僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
理人(りひと)? 何をそんなに――」
 気にしていたの?って聞こうとして、そういえば理人、ソファにTシャツ脱いでなかった?って思い至った。

 そう思ってみると、エプロンから除く二の腕には袖口の気配はなくて。
 もっというと、タンクトップとかそういうものの気配もない。

 あー、これ……! 気にしてたのはこのことだったのねっ?
 ちょっ、ダメ。笑っちゃいそうっ!

「り……理人っ、な、んでそんな格好……」
 してるの?まで言ったら吹き出してしまいそうで、慌ててそこで言葉を止めた。

 でも理人は私が笑いを堪えているの、分かってるみたいで。

「……こっ、これでもっ! 葵咲(きさき)ちゃんが帰ってきたのに気付いて慌ててズボンだけは履いたんだからねっ?」

 理人ってば、私に一生懸命言い訳をするの。
 基本的に、理人は5つも年上のくせに可愛いところのある人だけど、今日は照れた顔がギュッてしてあげたくなるぐらい好もしくて困ってしまう。

「エアコンが壊れちゃって暑かったから……その……仕方なく最初はパンツ一丁(パンイチ)で料理してたんだよ。けどさ、シチュー煮込んでたら結構熱いのが散ってきて……」

 だからとりあえずエプロンを付けたんだ、と言いたいらしい。
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