僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

　葵咲(きさき)にだって大学での授業があるから、無論理人(りひと)について行くことは出来ない。

　そもそも婚約者ではあるけれど、妻でもない女性を出張に同行させる大学職員なんていやしないだろうし、その子が自校の学生ともなれば、尚更そのハードルは上がってしまう。

　婚約者ということで職員課のほうへは内々に同棲のことだけは認めてもらっている理人たちだけど、これ以上あれこれをやらかすのはハイリスク過ぎる。

　図書館長の池本理人と、日本文学科３年生の丸山葵咲が同棲しているというのは、一部の人間たちには周知の沙汰だ。

　もし理人の出張に合わせたように葵咲が大学を休めば、何か言われてしまうかもしれない。

　葵咲には無事大学を卒業してもらいたい理人としては、彼女の未来を捻じ曲げてしまうようなリスクは極力冒したくはないのだ。