わたしたちはどこまでも 未熟だった
彼女はとてもいい香りがした。
巻かれた髪の毛を綺麗に結っていて
丁寧に化粧された顔。
どこ角度からみても
手の抜いてるところが見当たらない。
漫画に描かれているような
くっきり通った鼻筋。
アツシは
『めっちゃいい匂い』
『鼻高いね‼︎鼻フェチなんだよな』
とテンションが上がっていた。
けど彼女はただ自分の持ってるグラスを
見つめているだけだった。
あの表情は今でも覚えている。
空っぽな表情なのに美しい。
その表情を見逃さなかった。
会話を進めていくうちに
彼女は
ここの店員ではなく常連客だとわかった。
カウンターにいる
ケンジさんが1人でやっていて
状況みながら手伝ったりするらしい。
『ここ自由なBARだから〜』と
ケンジさんはオネエ口調で言った。
わたしは彼女に
『仕事何してるの?』
ときくと少し言いにくそうに
間を開けて小さく。
『ソープ』と言った。
思えばわたしは
自分が人に訊かれたくない質問を
彼女にしてしまっていた。
わたしと彼女2人きりだったならまだしも。
わたしは彼女のことを知りたいっていう欲が
抑えられなかったんだよね。
抑えられられない以前に
抑える必要性すら感じていなかった。
理屈つけていうとしたら…
だからこそ質問に答えてくれた彼女は
とてもかっこよく魅力的に見えた。