名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
 ドキドキしながら名前を口にした。

「翔也先生、そろそろ打ち合わせをしませんか」

 のぼせた頭を冷やすように仕事モードに切り替えようと声を掛けたが、慣れない呼び方に意識が朝倉先生に向いてしまう。

「打合せしましょう、夏希さん」
 蕩けような笑顔で返事をするから、その笑顔の破壊力に頭が爆発しそう。

 どうしよう。これって、私、どうよ。
 漏れてない? 
 朝倉先生を好きだって、駄々洩れていない?
 自惚れていいの? 期待して良いの? 
 仕事の関係がおかしくなったりしない??

「少しいい子にしていてね」
 朝倉先生は、美優に声をかけながらベビーサークルに下ろすと、仕事を始めるために机に向かった。

 二人並んでPCを見つめ、イラストを確認しながら色合い、小物などを話し合い決めていく。
 肩が触れ合う距離が、緊張する。

 仕事に集中と自分に言い聞かせてみても、隣にいる朝倉先生の息遣いやオーデトワレのウッディな香りが、私をおかしくさせる。
 本当に恋心とは、やっかいな物だ。
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