名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
 啄むようなキスを重ねながら、厚みのある背中を抱きしめた。
 自分の心臓がドキドキする音と息遣い、そしてリップ音が聞こえる。
 
 唇が離れ視線が絡むと朝倉先生が私の頬に手を添えて、おでことおでこをコツンと合わせた。
 そして、そっと囁く。
「夏希さんと美優ちゃんの事、大切に思っている」
 そんな事を言われて、ギュッと心臓が締め付けられる。

 いつもいつも迷惑ばかりかけて、朝倉先生に助けてもらってばかりで、ボロボロのこんな私を大切に思っているなんて言ってもらえるなんて、夢物語のようだ。

「朝倉先生の事、好きです」
 仕事相手として、口にしてはいけないと思っていた言葉を口にすると涙がこぼれた。
 その涙を拭うように朝倉先生のキスが落とされる。

 甘い口づけに酔いしれていると、一人遊びに飽きた美優が騒ぎ出し、ふたりで顔を見合わせて、笑みが漏れる。
 「ごめん、ごめん」と美優に声を掛けベビーサークルの前に移動すると、朝倉先生は美優を抱き合あげ「美優ちゃんは、私たちの天使だよ」と抱きしめた。
 涙が出そうなぐらいの幸せの時間を噛みしめる。
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