名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~

 特別な言葉を交わさなくても優しい空気に包まれていた。
 
朝倉先生が真剣な瞳を私に向け言葉を紡ぐ。

「結婚を前提として、付き合ってほしい」

 朝倉先生からの誠実さに、心が震えた。

「はい、よろしくお願いします」

 とんでもない出会いで出産に付き添ってくれた事、リテイクを出されてプロの仕事を考えさせられた事、何度もピンチを救ってくれた事を思い出す。
 朝倉先生は、いつだって私の憧れのヒーローだった。
 自分には、手の届かない人だと思って、膨れ上がる気持ちが苦しかった。
 諦めるように自分に何度も言い聞かせた。
 それが、まさか、こんな事になるなんて……。
 一生分のラッキーを使い果たしてしまったのだろうか?
と、心配になるぐらいに幸せだった。
 

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