名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
再び携帯電話が震える。今度はトークだった。
『 日曜日、14時に迎えに行く 』
と、書いてあり返信メールを送る。
『 チャイルドシートが無いと美優が車に乗れないよ 』
『 もう、用意したから大丈夫 』
こういう事に気が回るのは、将嗣らしいと思った。
『 了解 』
送ると直ぐに既読がついて、ハーッと息をつく。
面倒な事だけれど、美優の将来のためにクリアにしなければならない問題だ。勝手に産んだとはいえ、相手のいる問題は、デリケートで難しい。
一年半前に別れた相手に対する想い。あのころ抱いていた恋心は、彼の裏切りによって砕け散ってしまった。
あの時は、ショックでいっぱい泣いて過去の物になった。
それを今更、やり直そうと言われても困る。
既婚者なのに独身だと噓をつかれていたのは、ショックだった。
でも、知らなければ、どうなっていたんだろう。
ずっと、騙されたままだったのかな。
騙されたまま、妊娠、出産……。そう思うとゾワリとした。
それとも、あの時、別れずにいたとして、妊娠を機に将嗣は私との結婚を考えたのだろうか?
もしも、あの時は、誰しも考える事。けれど、考えてもあの時には決して戻れない。
そして、離婚して今は独身に戻りました。というだけで、やり直そうと言われても無理なものは無理だ。あの頃の気持ちは、既に過去のものになっている。
それに今は、朝倉先生が私の心を占めている。