名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
日曜日
玄関のインターフォンが鳴り、深呼吸をして美優を抱き上げ玄関ドアを開けた。
そこには、笑顔の将嗣が立っている。
うーん。なんて声を掛けたらいいのか?
「いらっしゃい」でもないし「ようこそ」とも違う。
仕方がないので「お疲れさま」と言った。
将嗣は、上機嫌な様子で美優に手を伸ばす。
「やあ、夏希。美優ちゃん、こんにちは、パパだよ、おいで」
美優も「あー」と言いながら抱っこされに行く。
こんな、ささやかな行動にも親子を感じてしまうが、なんだか面白くない。
ため息をつきながら美優を将嗣に受け渡し、車まで歩いた。
将嗣の車に着くと、話の通り後部座席にチャイルドシートが設置されいて、私は美優と並んで座る事ができた。
「ねえ、今日はどこで話をするの」
運転席にいる将嗣に声を掛ける。
「俺ん家で、良いだろう?」
朝倉先生と付き合い始めたのに元カレでもある将嗣の家に上がり込むのに抵抗があり、返事に困り、考えあぐねていると声が掛かる。
「小さい子供がいるとお店でゆっくり話も出来ないし、美優ちゃんもかわいそうだろう? 美優ちゃんにお取り寄せのプリンがあるんだ。それと、フロマージュも」
「えっ、フロマージュ 」
「そう、夏希、好きだったよな」
そう、あの口の中で蕩けるような至福の味わい。濃厚な味わい。北海道メーカーならではの美味しさ。口に入れた時のしあわせ、くぅ~!
「お・と・り・よ・せ!」
ニヤリと笑う将嗣に敗北感を感じる。