名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
将嗣は、軽く息を吐きだし気持ちを切り替えるように明るいトーンで口を開いた。
「じゃあ、実家に行く話は前向きに検討してほしい。でも、認知の話は進めるからな」
「将嗣は、美優の事を認知していいの? だって、この先、再婚とか考えた時に足枷になる可能性だってあるのに……」
私の言葉に将嗣は眼を細め優しい瞳を向ける。
「夏希と俺の大切な子供だろう」
そう言われて、何かストンと心に落ちた。
「ごめん、今まで黙っていて……」
再会しなければ今でも美優の存在を将嗣には知らせてはいなかっただろう。
自分の意地のために子供から父親を奪い、父親から子供を奪う身勝手な行為をする所だった。
将嗣が寂しそうに微笑みながら言葉を紡ぐ。
「イヤ、夏希は悪くない。悪いのは俺だよ。俺が、壊れた家庭を放置しないで、夏希と向き合っていれば、今頃3人で、ごくごく平凡な温かい家庭が築けていたんだ。俺が悪かったんだよ」
将嗣は私の肩に手を掛けた。
うっ、これは、マズイ雰囲気だ。
コイツ、あの手この手で、私を落としに掛かっている。