名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
「チッ」
「なに舌打ちしているんだよ」
「ヤバイ、心の中が、だだもれてしまった」
ふふっ、と笑うと将嗣もふわりと笑う。
「やっぱり、夏希はいいなぁ」
そんな、切なそうな顔を見せられたら、朝倉先生と付き合い始めた話をしようと思っていたのに言い出しにくい……。
「あ、あの……」
「なに?」
と、将嗣の瞳が優しいカーブを描き私を見つめる。
「あの、私……」
そう言いかけた時、将嗣が私の両肩を抑え、その手に力が籠る。そして、唇で唇を塞いだ。
突然の出来事に美優を抱いたままの私は身動きが出来ず、目を見開いたまま固まってしまった。
唇が離れると「おやすみ」と言って、将嗣は車に乗り込み、車のエンジンが掛かかる。短いクラクションが一つ鳴ると、車がゆっくり走り出す。
私は、驚きが大きすぎてその場に佇んだまま車のテールランプが小さくなるのを見つめていた。