名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~

 部屋に入って美優をベッドに下ろし、一息つくと先程の将嗣のキスを思い出す。
 私の言葉を遮るようなキス。
 将嗣は、きっと私が何を言い出すのか、察していたのかも……。

 朝倉先生と付き合い始めたと将嗣に告げようと思っていたのに腰を折られた形で困る。
 私にとって将嗣は、美優の父親、元カレ、今は友人。
 でも、それは、私が勝手に思っている事。将嗣からしてみれば、まったく違うのだろう。
 
 立ち上がりキッチンに移動して、マグカップにインスタントコーヒーの粉を入れた。クルクルとかき混ぜているうちに前の事を思い出した。
 そういえば、将嗣と付き合っていた時は、おそろいのマグカップでコーヒーを入れていたなぁ。

 将嗣が結婚している事を知った夜にゴミ袋に投げ入れ捨ててしまった。
 あの夜、この部屋にあった将嗣の物を全てゴミ袋に詰め、気持ちに区切りをつけ、忘れると泣きながら誓った。

 その後、お腹に将嗣との赤ちゃんが出来たのは、神様の悪戯だとしか思えなかったけど……。
 美優が産まれる時に朝倉先生と出会ったのも神様の悪戯の延長なのかな。
 そんなことをぼんやり考えた。
 
 
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