名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
「し、翔也さん」

 意識して口にするとムズムズとした気恥ずかしさがあって俯いてしまった。
 顔が火照っている感じがする。

「夏希さん」
 朝倉先生のイケボが耳元で聞こえ、甘い息がかかり、抱きしめられていた。

 まさか、到着早々この展開になるとは思っていなくて、顔が上げられずにドキドキしながら朝倉先生のウッディな香水の香りに包まれていると、耳にチュッとキスをされた。くすぐったいような、もどかしいようなその感覚に背筋をゾクゾクと甘い電気が走る。

 「翔也さん」
 名前を口にすると顎をクイッと持ち上げられ、唇が重なる。啄むようなキスから食むようなキスに変わりだんだんと深くなる。
 朝倉先生のもう片方の手が後頭部にまわり、逃れることもままならない。心臓が早鐘を打つ。

 朝倉先生との口づけは、お互いを味わうように少しずつ深くなり、リップ音がクチュクチュと部屋に響いた。
 
 トロンとした瞳で朝倉先生を見つめる。
 「夏希さんが、あまりに可愛くて……」
 と、耳に心地良い声が響く。
 「もう少し紳士でいる予定だったのに、抑えきれなくて、ごめん」
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