名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~

「実はね。今から4年前、翔兄の奥さんが、妊娠8か月の時に交通事故で亡くなってしまって暫く翔兄ショックでヒドイ状態だったの。当時は翔兄が自殺でもするんじゃないかって、みんなで心配して大変だったんだ。すっかり立ち直って良かった。今回の夏希さんとの付き合いの話を聞いて、お母さんも喜んでいたんだよ」

 真由美さんが話し始めてくれた内容は私にとって、とてもショックな話だった。部屋の片隅に置かれたベビーベッドを見る。さっきまで美優が眠っていたその場所は、本来なら朝倉先生の赤ちゃんが眠った場所だったのではないだろうか。
 心の中で、何だかわからない感情がグルグルと渦巻く。
 
 私に将嗣との過去があるように、朝倉先生に他の女性との過去があったとしても仕方が無いこと。
 何がこんなにショックなんだろう?
 頭の中が、真っ白になってしまって、何も考えられない。目の前にいる真由美さんが、何か言っているのも、まるで音の出ない画像を眺めているような現実感の無さだ。

 真由美さん越しにベビーベッドが目に入る。
 妊娠8か月で亡くなってしまった朝倉先生の奥さんとお腹の中の赤ちゃん。もしかしたら 私と美優は ”その身代わり” ではないのか。
 そんな考えがふと過った。
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