名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
不意にチェストの上に置いてあった携帯電話が着信を告げた、噂をすれば影とは良く言ったもので、散々話題に上っていた将嗣からだった。
紗月に「ちょっとごめんね」と声を掛け、電話に出る。
「夏希、認知の件で話があるんだけど、これから行っていいかな?」
「えっ!これから? 今、いとこが来ているんだけど」
「顔を見たらすぐに帰るよ。ますだ屋の生クリームどら焼きがあるんだ」
「えっ? あのどら焼き?」
「そう、あのどら焼き、10分で行くから待ってろよ」
と返事も聞かないうちに電話は切れてしまった。
「紗月、ごめん。元カレがこれから来るって」
「ウソ、マジ、美優パパの顔を拝んじゃお!」
将嗣と二人きりで会うよりマシなのかな?
紗月がいる以上、この前みたいにいきなりキスをする事もないだろうし。
ポジティブ思考でいると ピンポーン!とチャイムが鳴った。
ドアを開けると予告通り将嗣現る!
「いらっしゃい。毎度いきなりですね」
「えっ? 電話したじゃん。これ、ますだ屋の生クリームどらやき」
ますだ屋の生クリームどら焼き、そんじょそこらの類似品とは別物の絶品どら焼き。甘すぎず、フワフワの食感。生クリームと粒あんの絶妙なバランス。
くそぉー。毎度毎度、美味しいものを……。
玄関で追い返そうと思っていたけど、しょうがない。
「ドウゾ、オアガリクダサイ」