名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
一見キツイ様に見えるが、これは紗月の性格だし私の事を思って言ってくれているのがわかる。心の中に裏表がなく、ズバズバ言う。
 紗月は、テーブルの上に転がっている朝倉翔也の本の背表紙を眺めてニヤリと笑いながら私に話し掛けた。

「今日、会う予定の作家先生なかなかのイケメンだねー。夏希ちゃん頑張れば?」
 
「何、バカな事言わないで! この悪魔と会うだけで、頭沸騰わきそうなんだから!」

 思い出すだけでイライラして、おろしたてのパンストを電線させてしまい、ゴミ箱に投げ捨てる。

「悪魔って、なんかあったの?」

「もう、訳の分からないリテイクを鬼のように出されて、マジ悪魔」

「ふ~ん。でも、仕事でしょ?」
 
 ぐっ。そうなのだ。鬼リテイクの後、送ってOKを貰えたイラストは、確かに構図や色合いなど完成度が高く自分の作品では、一番良い物になった。
プロとして一切妥協の許されない仕事は、私の今後の糧となるだろう。

「出来たよ」

「うーん。80点。やっぱり戻りが甘いな」

「すみません」

「まあ、せいぜい営業しておいで」

「はーい」

 80点の私は、悪魔に会うために打ち上げのお店に向かった。
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