名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
「ありがとう」

「じゃ、お言葉に甘えて行ってきます」
 と、紗月が明るく返事をする。

「いってらっしゃい」

 将嗣の声が優しく聞こえ、紗月が将嗣に手を振りながら呟いた。

「園原さん、良い人だねぇ」

「うん、いい人だよ」
 私は複雑な思いで答えた。

「ねえ、あれから作家先生とはどうなったの?」

 紗月が好奇心いっぱいの瞳で聞いてくる。どうなったもこうなったもラーメン屋さんの順番待ちにする話じゃないし。

「えっ、順調に付き合っているよ」

「なーんだ、続いているんだ」
 紗月は人の顔を覗き見る。
 いくら見られても本当のことしか言っていない。
 むう。っと、頬を膨らませた。

「ごめん、怒らないでよ。園原さんいい人だから美優ちゃんのパパとして応援できたらなって思っていたんだ。夏希ちゃんには、余計なお世話だよね」
 とパンッと拝むように両手を合わせて謝った。

「まあ、将嗣の事は見直したけど、私の恋も温かい目で見守ってほしいなぁ」

 と言ったところで、順番が来て店内のカウンター席に案内された。
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