名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
旅行2日目、今日は将嗣の実家に伺う日だ。
朝、早くから目が覚めてリビングから縁側に出て、冷たい晩秋の山の風景を堪能している。まだ、少し紅葉が残っていて所々、赤や黄色に染まった木々が鮮やかな彩りを見せていた。
ほぅと吐いた息は白く、空気は澄んでいる。
せっかくだからと露天風呂に足だけ浸けて一人露天風呂を楽しんでいた。
カラカラと窓が開く音がして、視線を送ると将嗣が「おはよう」と声を掛けてきた。
「おはよう」
「よく眠れた?」
「うん、バッチリ。将嗣も足だけでも入ったら? あったかいよ」
「ん、そうだな」
将嗣は私の横に座って足を浸けるとお湯が小さなさざ波を作り、そのお湯の波形を眺めてた。
「なあ、夏希、……今、幸せか?」
「うん、幸せだよ」
「そうか……」
将嗣は、それ以上の事は何も言わず、二人で並んだまま、風に揺れる木々の音や鳥のさえずり、お湯の流れる音を聞いていた。