名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
部屋の中から美優の泣き声が聞こえて来る。
「あ、美優が起きたみたい。行かなきゃ」
と慌てて、お湯から足を出しタオルで拭いて部屋に向かう。
将嗣も一緒にお湯から上がり部屋に入った。
「あ、パパとママが来たよ」
紗月が美優を抱っこして、話しかけると美優がキョロキョロとして、私を見つけ泣き止み、「まま」と指差す、「ふふっ、ウソ泣きして」とほっぺたをツンツンとつつくと美優は嬉しそうに笑った。
「美優ちゃん、パパだよ。パパって言わないかなぁ?」
将嗣が声を掛け手を伸ばすと美優も将嗣に手を伸ばす。
将嗣に抱っこされた美優はとても楽しそうだった。
でも、美優てば、『パパ』って言ってあげないんだなぁ。まっ、いっか。
お部屋食の朝ごはんの膳が運ばれて来て旅館ならではの豪華な朝ごはん。
おひつに入ったご飯の他に御粥も付いていて、美優の離乳食にもなって助かる。一応、レトルトの離乳食は持ってきたけれど、出来るなら美味しい物を食べさせてあげたかった。
小鉢に入ったひじきの煮物やお吸い物を少しだけ分けて食べさせる。
「へー。結構色んなもの食べれるんだな」
将嗣は感心した様子で美優を見ていた。
「子供の成長は、早いよね。ついこの間生まれたと思ったらあと少しで1歳だし、この前、少し歩いたんだよ」
「そうだよね。産まれた時、おさるさんみたいで、小っちゃかったもんね」
紗月が言うと
「そうか、おさるさんみたいで小さかったのか……。これからドンドン大きくなるな、彼氏とか連れて来たらショックだよ」
「えー、まだまだ、先の話だよ。今から心配してどうすんの? 」
「わかんないよ。子供の成長は早いからな」
と将嗣は、真顔で言う。
口には出さないけれど、将嗣が美優と会ったのは9~10ヶ月健診で区役所に行った時が初めてで、その前の美優を写真でしか知らない。きっと見たかったんだろうなと思った。