名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
気持ちを切り替えるために、努めて明るく振る舞い、お土産を手に取った。
「何を食べようかな?」
「美優ちゃん、ママはダイエットするって、言っていたの覚えていますよね。ママは忘れちゃったみたいですよ。教えてあげましょう」
「覚えてます! まだ、着いていないもん!」
「美優ちゃん、ママが子豚さんにならないようにママの事を二人で見張りましょうね」
「んっもう!ひどい!」
いつもの軽口にふふふっと、笑いがもれた。
早めのトイレ休憩を挟みながら車は順調に地元の市大病院に到着。
地元の見慣れた景色を眺めているだけでもホッとする。
車イスを押されて病室に入いると、そこは個室だった。福島の病院で個室だったのは事故に遭ったばかりだったし、何となく納得していたのだけれど、回復してきた今でも個室だなんて……。
私は目を丸くしながら将嗣に言った。
「贅沢じゃない?」
重傷でもないのに個室だなんて、幾らするんだろう?
「良いんだよ。差額は俺が持つから、相部屋だと美優がゆくっり出来ないだろ?」
確かに乳幼児を連れてのお見舞いは、相部屋では気を使う。
将嗣の思いやりにほっこりして、素直に感謝の言葉が出てきた。
「うん、ありがとう。助かる」
言葉を紡ぐと頭をクシャっと撫でられる。
「俺も美優や夏希の事が大事なんだよ」
ぽそりと呟かれた。