名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
 あの寒い風の吹く12月の街中で私を支えてくれた手は、心まで温かくしてくれた。
 恋人同士になる事は無理だとしてもせめて恩返しぐらいはしたい。

「谷野さんと美優ちゃんに充分癒やされているから気にしないでいいんだよ」

 尊い……。

 買い物に行って来るよと言われ、お言葉に甘えてお願いしますと朝倉先生に家の鍵を渡した。

「横になって、休んだ方が良いよ」

 朝倉先生の言葉に頷いて、ベッドに向かおうと振り返った。その時、クラッと目眩を起こしバランスを崩してしまう。

 倒れそうになった私を朝倉先生の腕が支え、気が付くと朝倉先生の腕の中に抱き留められていた。
 朝倉先生から香るウッディな香りに包まれ、心臓がドキドキと跳ねる。
 顔がすぐそばで、目が合い視線が絡む。
 ち、近い……。

「す、すみません……」
 
 いくら何でもこの距離はダメだよ。顔が火照っているのが自分でもわかる位だし、恥ずかしいやら嬉しいやら、どうしていいのかわからない。
 おかしな態度を取って、朝倉先生との関係が悪くなったらどうしよう。
 
 ひゃー。誰かどうにかして!!
< 87 / 274 >

この作品をシェア

pagetop