名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
 残された部屋の中で自分の心臓がドキドキいっているのが、聞こえる。
 不意打ちと言えるほどの近い距離、優しい仕草に押さえ込んでいた恋心が膨らむ。

 朝倉先生の優しさを勘違いして、自分に気があるなんて思ったりしない。
 今日だって、こんなスエット姿のボロボロの格好で、女としてマイナス得点の状態だし、出会った頃から迷惑しか掛けていない。
 ザ・パーフェクトの朝倉先生に似合うような女では無い事ぐらい、自分が一番わかっている。

 もし、恋心がバレて、仕事を失ってしまうような事態になったらどうしよう。仕事相手だから親切にしたのに、勘違いしちゃったイタイ奴になりかねない。この恋は、絶対に言っちゃダメだ。

 女である前に、美優の母として、生活をしていかなければならない。
 子供を育てるには、夢や希望だけではなく、現実問題としてお金が凄く掛かる。日常の雑貨品だけではなく、この先大学までの教育費を考えたら大変な金額だ。幼稚園から大学まで、すべて公立の学校でも12百万円、すべて私立ではこの倍の金額24百万円、大学の学部によってはもっと掛かる場合がある。
 私は、美優との生活を自分の恋心のために失うわけにはいかない。

 ただ、制御不能な恋心を上手に隠せる演技力が自分にあるとは思えない。
 駄々洩れになって、ウザがられたらどうしよう。
< 89 / 274 >

この作品をシェア

pagetop