名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~
「わかった。また、来るよ。これ、好きだろう? 夏希に買ってきたんだから食べてくれよ」
と、袋を渡された。
「美優ちゃん、またね。今度、パパと遊ぼうね」

 私は、再び目で将嗣に か・え・れ・と強い視線を送った。
 もう、これ以上余計な事を朝倉先生に言わないで欲しい。
 様子を察したのか将嗣は「連絡する、またな」と言って帰っていった。

 朝倉先生と二人(美優もいるから正確には三人)
 この後、仕事をしなければならない。
 気まずい空気をどうしてくれよう。
 くそぅ! 将嗣のヤツめ~!
 美味しいケーキぐらいじゃ、ごまかされないぞ!!
 
 これは、もう、気まずすぎる。トホホ。

「朝倉先生、申し訳ございません」
 美優を抱えた状態で、頭を下げた。
 気持ちとしては、土下座をしたいぐらいだった。どんだけ迷惑をかければいいのか。

「取り敢えず、上がらせてもらっていいかな」
 朝倉先生にそう言われ、ハッとした。
 家の玄関先で何をしているのか……。

「ドウゾ、オアガリクダサイ」
 ツライ、辛すぎる。

 美優をベビーサークルに下ろそうとすると、朝倉先生が美優を受け取るように手を差し伸べる。素直に朝倉先生に美優を預けた。
 視線が合うと先程の一件の気まずさから目を逸らしてしまう。
 それを誤魔化すように「お茶を入れますね」と声を掛け、キッチンに移動する。

 どうしよう。何から話す?
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