名無しのヒーロー ~シングルマザーは先生に溺愛されました~

 だいたい、どこから話たらいいの?
 まったく、将嗣が変な時に来るのがいけない。仕事相手が来るから帰れって、言っているのにグズグズ帰らず、朝倉先生に余計な事を言って、なにが” 美優の父親 ”だって 
 つい、この前、知ったばかりなのに何なの?
 朝倉先生を牽制するようなことを言って、朝倉先生は、ただ親切で私たち親子の事を助けてくれているのに……。

 はぁーっと、大きなため息をついた。

 先生の前にお茶を置いて美優を受け取ろうと手を伸ばした。すると、朝倉先生の手が私の手首を掴む。

「先生?」

「この子の父親と会っているのか?」

 私は、朝倉先生の行動と言葉に困惑する。普段の穏やかさからとは、違う荒々しさに朝倉先生の怒りの大きさが伝わってくるようだった。
  
 美優の実の父親がいるのに散々迷惑をかけて怒っているのだろうか。

 朝倉先生の問いになんて答えたらいいのだろう。
 私は、小細工や言葉の駆け引きが出来る様な器用なタイプではない。本当の事を言うしかない。
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