御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
「何言ってるの。給料日までギリギリなんでしょ。働いて稼いだお金はちゃんともらうこと!これは商売の鉄則だよ!はい!」
 と、札束を差し出された。夏美はおずおずとそのお金を受け取った。目に、涙が滲んでしまう。
「うぅ、来月の食費にします…隆さん、お願いだから、さっきのご馳走の分はとってください」
 そう夏美が言うと、仕方ないなあ、と隆は千円札を数枚抜き取った。夏美の、隆に対して持っていた申し訳なさが少しだけ減った。
 時計を見れば、もう十時を過ぎていて、隆がうちまで送ってくれることになった。ビールを片手に飲みながら歩いていく。
「それにしても隆さんの威力はすごかったですね。どうしたらあんなに上手にお客様を引き寄せられるんですか?」
「そりゃあ、僕の笑顔には天使クラスだから。とか言って、それは嘘。あのね、高校の文化祭なんかで呼び込みやるでしょ、自分のクラスの。あれ、僕、とても得意だったんだ」
「文化祭…どんなことしたんですか」
「僕のクラスは素人がやる寿司屋。クラスに魚屋の息子がいて、やろうやろうって盛り上がったのはよかったんだけど。そこの親父さんが怖い人でぜったい原価割れさせるな、って言うもんだから、もう皆必死でお客さんの呼び込みしたんだ。その中で、いちばん呼び込みが上手かったのが僕」
「はあ…もともとそういう素質があったってことですか」
「うん。見ず知らずの人にどうですかー?って声かけるの、全然苦にならないんだよね。僕、自分が笑ってたら相手もきっと笑ってくれるって信じてるおめでたい奴なんだ」
 夏美はぽかん、と口を開けてしまった。
「それは…今も変わらず、そう思っているってこと?」
「うん。そりゃあ、いやな奴もときどきいるけど、そいつのこと考えたって何にもならないじゃない。だから僕は、出会った人にはできるだけハッピーになってほしいって思っているよ」
「ああ、それで」
 夏美はやっと合点がいった。なるほど、だから見ず知らずの私の事も助けてくれたんだ。
「すごいなあ。隆さんは。凄腕のセールスマンとかになれそう。っていうか、本当にそういう営業職だったりして」
 そう言うと隆は、うーん、と呟いた。
「営業っていうか…人と会う仕事ではあるかな。まあ、親父の仕事を手伝っているだけだから偉そうなことは何も言えないんだけどね」
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