御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
「さっき、僕に絵の似顔絵の…写真立ての横に置けるような、って話し、してくれていた時の夏美さん、すごく生き生きしてたよ。ほんとは、心の奥で、そういう話しがしたい、って思っている自分がいるんじゃない?」
「それは…」
 確かにそうだった。個人的に、絵の話をしたのは久しぶりだった。自分でも隆が相手だとするすると喋ってしまっていた。夏美の心は、確実に高揚していた。
「それは、そう、ですけど…」
「決めた!じゃあ、絵の話がしたくなったら僕を呼ぶといいよ。はい、これ連絡先」
 そう言って、隆は夏美の手に自分の名刺を渡した。そこには、住所と、携帯電話の番号とメールアドレスが載っていた。それから中河隆、という名前も。
 夏美は名刺をじっと見つめて言った。
「あれ?隆さん。なんていう会社かわかりませんよ」
「天使だからね。肩書きはいらないよ」
「またそんなこと言って」
「ほんと、ほんと。まあ、おいおいわかるって。夏美さん、ところで、第二回目の似顔絵描き、いつやる?」
 夏美はまたしても固まってしまった。
「二回目って…また、つきあってくれるんですか?」
「うん。そのつもりだけど」
 隆の顔を見ると、当たり前でしょ、と言うような表情をしている。
「でも、あの…隆さんも、お仕事があるでしょう。ご迷惑、ですよね」
 そう言うと隆はぶんぶん、頭を振った。
「僕の仕事、割と時間の融通がきくんだ。だから、夏美ちゃんの予定に合わせられると思う」
 夏美は、気持が浮き立つのを感じた。
「じゃ、じゃあ…明後日の金曜日。今日、会った公園で夕方17時にどうでしょう」

 隆にアパートの手前まで送ってもらって、自分の部屋に帰ってきた。今日はいろんなことがあって心地よく疲れていた。さっとシャワーを浴びて、髪の毛を乾かしてから、パジャマに着替えてベッドに横になった。
 電気を消して、薄暗い天井を見ながら考える。
 今日は、なんか怒涛の半日、だったなあ…!
 お腹は満たされているし、月末にいつも寂しい気持になる財布も、今日は三万円も潤っている。パン屋さんでもらったパンの耳をかじっていた先月の月末とは大違いだ。
 それもこれも、全て隆のおかげだ。
 ふうっと息を吐く。少し、右手がだるかった。あんなに短時間でたくさんの似顔絵を描いたのは初めてだった。
 そして、描いた似顔絵を見て、嬉しそうな顔をしたお客さん達の顔。
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