御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 ロッカーのところで、宮下あずさがそう声をかけてくれた。夏美の昼間のバイトは産地直送のフルーツを、お得意様に電話ですすめる仕事だ。いつもなら五件、購入してもらえればいい方なのに、今日はその倍の十件も注文をもらえたのだった。
「声がいい感じに明るかったよ。のってたね。なんかいいことあった?」
「う、うん。ちょっと臨時収入が入ったから」
 自分では、今日もまた隆に会えるからだ、とわかっているのだけど、あずさにそう言うわけにもいかない。
「へえ。いいね。宝クジでも当たったの?」
「うん。そんなとこ」
「そうなんだ。沢渡さん、今日、可愛い格好してるから、デートかと思った」
 ドキッとする。やはり同性の目はするどい。一昨日はセーターにジーンズだったので、今日はお気に入りのスカートとカーディガンにしたのだ。
「ちょっとまあ、気分転換に、ね」
「いいんじゃない。気分転換で受注件数が伸びれば。ボーナスだって上がるかもよ」
 そうなのだ。この会社は、今時バイトにも年二回、金一封が出るという粋なはからいのある会社なのだ。
「だといいんだけど。宮下さんだっていつも成績がいいじゃない。すごいなって思う。じゃ、また来週ね」
 うん、またねとあずさが手を振って、それに振り返してロッカー室を後にする。公園までの道すがら、今日の自分の現金さに呆れてしまう。今日、隆に会えると思うと、知らず知らず声のトーンが上がっていたのだ。それはいい方向に転がって、好成績に結びついた。
 気分の持ち方ひとつで、こんなに色んなことに影響してきちゃうんだなあ…。
 服装にしてもそうだった。実は、隆と会うのを二日後にしたのは理由があった。隆と二度目に会う格好を熟考したかったのだ。
 数少ないワードローブの中で、どうしたら一番可愛く着こなせるか。夏美はああでもない、こうでもない、とコーディネートを繰り返した。
 やっと決まったのが昨日、寝る前だった。
 隆さん、なんか言ってくれるかな…。
 いやいや、と首を振る。変に期待してしまうと、言われなかった時にへこむから、これではいけないと気持を改める。
 今日もがしっと似顔絵!と、心の中で拳を握りしめていると、後ろから声がした。
「夏美ちゃん、待った?」
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