御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 段々、隆が子供っぽく見えてきた夏美は、この人、可愛い、と思ってしまった。何でもできそうで、何でも持っていそうで。夏美には手の届かない人に見えていたのに。
 …ほんとは、そうでもない?私でも、手が届くの…?
  デザートが食べ終わる頃、隆が言った。
「ね。次の似顔絵はいつにしようか。やっぱり屋外がいいから天気のいい日がいいよね」
 隆が言いながらスマホで天気を調べてくれた。
「駄目だ。来週は、ずっと雨だ。屋外じゃなくて、やれそうな場所っていうと…」
 考えを巡らし始めた隆を見て、夏美はあの、と言った。
「実は、私、イラストを出したいコンテストがあって。似顔絵書きは、生活費のためだから…今回、隆さんのおかげで十分稼がせてもらえたので、来週からはコンテスト用の絵を描こうと思っているんです」
 隆は夏美の言葉を聞いて、あ、と口を開けた。
「そうか…そうだよね。似顔絵書きが夏美ちゃんの本業じゃないんだった。ごめん、僕、なんか一人で突っ走っちゃった」
 いえ、と夏美は首を振った。
「本当に、今回の似顔絵で隆さんには感謝してるんです。ここ数年、こんなにお財布が潤ったことってなかったし…おかげで、欲しかった画材も買えそうだし。本当にありがたいって思ってて…」
 隆が、じっと夏美の目を見つめた。
「…本当に?僕にまとわりつかれるのが嫌になったとかじゃない?夏美ちゃん、僕のことを似顔絵の稼ぎを狙ってるとか思ってるんじゃ」
 思いがけない言葉が飛んできて、夏美は目を丸くした。
「な、何を言い出すんですか。そんなんじゃないんです。本当に!だから、あの」
 勇気を出すなら、今、ここでだ、と夏美は自分を鼓舞した。
「よかったら今度、私の部屋に来ませんか。これまでのお礼に…大したことはできないけど、料理とか、作ります」
 今度は、隆の方が目を丸くした。
「僕が…夏美ちゃんの部屋に、行っても、いいの?」
「は…はい。狭いですけど、よかったら」
 夏美は言いながら顔が熱くなるのを感じた。我ながら大胆な誘いだと思わずにいられない。
「嬉しいな。今まで描いた絵とかも見せてもらえる?」
「…もちろん!逆に、見てもらえますか、ってお願いしようかと思っていたくらいです」
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