御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 バイトの仕事が終わり、帰宅するとさっと料理にとりかかった。一つだけ煮込み時間がかかる料理があったので、それに手を加えていたら、あっという間に隆が来る時間になってしまった。
 予定時間きっかりの夜七時に、ドアのチャイムが鳴った。ドアを開けると、最初に目に飛び込んできたのは、バラの花だった。数十本はありそうな、立派な花束だ。
「わ…隆さん?!」
 花束をずらして、隆がいたずらっぽい顔を見せてきた。
「ごめんね、ベタで。でも、やっぱ訪問にお花は欠かせないでしょ」
「うふふ…嬉しい。ありがとう」
 差し出された花束をぎゅっと抱きしめる。バラに顔を埋めるようにして香りをかぐと生花らしいフレッシュさがあった。
「あ!夏美ちゃん、髪!」
 隆が声をあげて、夏美は途端に恥ずかしくなった。こいつ力入ってるなあ、と思われそうだ。
「似合ってる…うん、いいね」
 夏美のイメチェンをからかったりしないのが嬉しかった。やっぱり隆さんは、優しい、と改めて思った。
「いい匂いがする」
 作っていた料理の匂いを隆はすぐにかぎつけたようだった。
「すぐ食べられるようにするから。待っててください」
「何か手伝うことある?」
「お客様にそんなことはさせられません。座ってくつろいでいてください」
 きっぱりと夏美が言うと、嬉しそうに隆がわかったよ、と言った。ローテーブルの奥の席に座ってもらう。何度も手順をそらんじていたので、夏美は、慌てずに次々と料理を運ぶことができた。
「すごいな。こんなに作ってくれたんだ」
 隆が感嘆の声をあげてくれる。
「つい、作りすぎてしまって…味は保障できないけど」
 自分なりに味見はしているものの、隆の口に合うかどうかは食べてみないとわからない。和食系が多かったので、ワインは白を冷やしておいた。
 とりあえず乾杯をして、食べ始めることにした。隆はじっくり味わうように食べてから
「うん。美味しい」
 と、夏美の目を見て言った。
「よかった。隆さんの好みじゃなかったらどうしようって、緊張してたの」
「緊張する必要なんて全然ないよ。どこに出してもおかしくない料理だ」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
 第一段階をクリアしたので、夏美もやっと食欲が出てきた。隆と喋りながら箸を進める。この料理、どの位時間がかかったの、と隆にきかれた。
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