御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 そうしてください、と夏美が言ったところで片付けが終わった。隆もこれ以上いると帰れなくなるから、とすすんで玄関先へと行った。靴をはいたところで、夏美の頬にちゅっとキスをした。夏美はくすぐったくて笑みがこぼれた。
「じゃあ。また週末に。イラスト、がんばってね」
「ありがとうございます。隆さんも…っていうか、隆さんのお仕事、まだ知らないんですけど」
「うん。えーと、おいおいわかると思うよ。とりあえずは…週末、差し入れするから、楽しみにしておいてね。じゃ」
 ドアは閉められ、取り残された夏美は呟いた。
「おいおいわかる…言いたくない職業なの?」

 翌日。今日もなんとか合格ラインの成績でバイトが終わり、ほっとしているところをあずさに声をかけられた。
「ダメもとで誘うけど。コーヒーチケットが二枚あるの。飲んでいかない?」
 夏美はちょっと迷ったが誘いを受けることにした。今日からとりかかるイラストの構想はまだできていなくて、ちょうど気分転換したいな、と思っていたのだ。
 二人並んで、駅の方へ歩き、あずさがよく行くというカフェに入った。コーヒーを受け取ってから向かいあって席に座る。
 あずさがにっこり笑って言った。
「よかった、沢渡さんに時間があって。いつも忙しそうだから」
「うん…ごめんね。いつも断ってばかりで。なかなか時間がとれなくて」
「ううん。誰だって事情があるもん。仕方ないよ。実は、沢渡さんを誘ったのって、私、逃避なんだ」
「とうひ?」
「うん。彼氏と同棲してるんだけど、夕飯の献立作るのが面倒で。仕事終わったーってなった後に、ちょっと一服したいなあ、って思っちゃうの」
 あずさが同棲している、というのは初耳だったので、そうだったのか、と夏美は改めて思った。
「もう彼氏さんとの同棲は長いの?」
「うーん、半年くらいかなあ。ほら、つきあい始めって、ついつい料理、頑張っちゃうじゃない?最近はその頃と比べて品数減ったね、とか言ってくるんだよね」
「ああ…!そうだよね。はりきっちゃうよね」
 夏美は、ぶんぶん頭を振って頷いてしまった。つい昨日、まさにそれをやってしまったばかりだ。
「わかる?っていうかー、沢渡さん、彼氏ができたでしょ」
 う、と夏美は言葉に詰まった。もう隠し通せない気がする。
「じ、実は…できたっていうか…告白、されて…今度の週末も会うっていうか…」
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