御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 てれくさくてごにょごにょと言ってしまう。
「そうでしょ?やっぱりー。髪の毛カラーリングしたりして、何かあったんだろうなあ、と思ってたの。うふふ。彼氏さん、何やってる人?ちなみにうちの彼氏は薬剤師だよ」
「へえ。立派なお仕事ね」
「うん。だから家賃、六対四で多めに払ってもらってんの。沢渡さんのところは?」
「名刺はもらったんだけど…はっきりしないの」
「ええ?だいじょうぶ、それ」
「きいたら、おいおいわかるって…お金はあるみたいなんだけど」
「心配だなあ。水商売とか?」
「うん。それは違うと 思う」
 金まわりがよくて、隆の言うようにある種接客業。夏美もその方向を一瞬考えたけれど、似顔絵描きのバイトを手伝ってもらった時間帯は飲食業だとかぶってしまうはずだ。隆の行動パターンを思い出すと、夜の仕事ではないのは明らかだった。
「そっか。じゃあ、ちょっと安心かな。私の友達、出会ってすぐにつきあいだしたら、実は無職だったりしてさあ。さらにその男、借金も抱えてて大変だった。やっぱり、つきあいはじめにちゃんとしとくのは大事だよね」
「うん。わかる」
 隆が有能そうな素振りを見せるたびに、どんな仕事の人なんだろうと思っていた。ただ、夏美から問い詰めるのも違う気がして訊けないでいたのだった。
「で、ね。私、最初に手を打ったんだ。もうアラサーだし。これ、書いてもらった」
 あずさは、自分のカバンからさっと、クリアファイルを取り出した。そこに収められていたのは。
「それって…婚姻届?!」
 まさに、ドラマでしか見たことのない婚姻届だった。しかも、どの欄もきちんと埋まっている。もう市役所に届けられる体になっている。
「そう。三十過ぎてから結婚引き伸ばされるのって嫌だなって。これがあれば、二人の気分が盛り上がった時に、さっと出せるじゃない」
「は、はあ…すごいね、宮下さん、しっかりしてるね」
 夏美と言えば、イラストをどうするか、考えて悩むことはあっても、結婚に関して悩むことはなかった。もっと先のものだという意識だった。
「私、今やってる電話の仕事気に入ってるから。今の生活パターンでいきたいんだよね。このまま、彼と結婚したいなあってのが本音なの」
「そうか。うまくいくといいね」
 夏美はしみじみとそう思った。
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