御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
「ま、そうは言っても、一緒に暮らす大変さもあってさあ。うちの彼氏、お味噌汁の具が二つほしいって人で、毎日、なんの具にしようかって常に悩んでるよ。昨日はじゃがいもと玉ねぎで…今日は、何にしようかなあ」
 あずさは大きく溜め息をついた。あれ、と夏美は思って言った。
「ローテーションは組まないの?」
「え、何それ」
「だから。二週間単位くらいであらかた何の具にするか決めちゃったら?パターンを組んじゃえば献立に悩まなくていいよ。私、節約生活してるから、一か月分の食生活を月はじめに決めちゃうの。そうすると、結構無駄なくやれるよ」
 これで画材や、画集といった臨時の出費がなければだけどね、と心の片隅で思いながら言った。
「そっかあ。決まってないから毎日悩むんだもんね」
「そうそう。スーパーの底値なんて、そうそう変わらないじゃない?計画するだけでだいぶ違うよ」
「へえー。沢渡さん、ふわふわしてるタイプかなと思ってたけど、そういうことはきっちりしてるんだね。見直しちゃった」
「うふふ。宮下さんも、しっかりした彼氏つかまえちゃって。私も、ちゃんとしたいなあ」
「できるよ。彼氏さんって沢渡さんにめろめろ?」
「ま、まあ…そうかなあ」
 隆もめろめろだけれど、夏美自身もめろめろだとは言いにくい。さすがにバカップルみたいに聞こえそうだ。
「じゃあ、大丈夫よ。最初にちゃんと主導権、にぎっておけばうまくいくって。健闘を祈る」
 そういって、コーヒーの入ったカップをジョッキのように持ち上げた。夏美もおう、と言ってカップを持ち上げる。にゃはは、と二人で笑いながら、こんな時間もいいもんだな、と改めて思った。
 
 数日後の夜。夏美はスケッチブックに向かっていた。いくつか描いたラフスケッチに手を加えているところだ。今日は、描きためたラフスケッチの中から一つ選び、明日から下書きに入ろうと思っている。
 もう十時か…と、時計を見た瞬間にスマホが鳴った。隆からだった。
「夏美ちゃん?今、忙しい?」
「うーん、まだそんな切羽詰っていない、っていうか。明日から下書きを始めようかなって決めたところです」
「へえ。ちゃんと進んでるんだね」
「まあ、なんとか。隆さんは、お仕事、終わったんですか?」
「うん。ちょっと先方とお酒飲んでた。仕事じゃないお酒が飲みたいよ。夏美ちゃんの部屋で。早く週末にならないかなあ」
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