御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 夏美は、改めて隆を見つめた。
「いろんなことがあったけど…どれもこれも、隆さんがリリス出版を紹介してくれたからだものね。本当に…何度も言うけど、隆さんには感謝してるの」
「そう?ときどき仕事の邪魔をして、こんな男イヤって、思ったんじゃない?」
 隆がわざと眉間に皺を寄せて言うので、夏美は笑った。
「思わないよ。隆さんがいてくれるから、私、がんばれたんだもん。でも…」
 ごくり、と夏美は息をのんだ。昨日、「ICHIGO」のことをきいたときの隆の声があらたまっていたのがずっと気になっていた。隆から言ってくれるだろう、と思って待っていたが、なかなか「ICHIGO」の話にならない。
 これは、よくないことがあったってことかな…?
「あのね、隆さん」
 思い切ってきこうと決めた夏美の気持を読んだのか、隆が「ICHIGO」のことだよね、と言った。
「ごめん。ずっと驚かせたくて黙ってたんだ。夏美ちゃん、『ICHIGO』は、予想の十倍以上の売れ行きで、書店で売り切れ続出なんだ」
「え?」
 夏美は目を丸くした。濱見崎のテレビやラジオ、ネットでの宣伝のおかげで、ある程度は売れるだろうと、夏美も思っていた。どのくらいの冊数を印刷するかも、この手の企画もののプロの隆なら、間違うことがないだろう、と安心しきっていた。
 それが十倍で、品切れって…?
 思わず、ぽかんとしてしまって隆の顔を見る。
「びっくりしたよね。僕も、ここまで売れるなんて予想してなかったんだ。確かに濱見崎先生は、よくプロモーションして動いてくれていたから結構イケるとは踏んでたんだけど。それで、何が購入の決め手だったか、すこしずつお客様の声が届いているんだ。それが、ほとんど同じなんだ。濱見崎先生のファンだから、っていうのと、もう一個あって」
 夏美は頭を追いつかせるのが精一杯で隆の言葉を聞き入るしかない。
「表紙を見て、決めましたって声が、圧倒的、なんだ」
「ほ、ほんとに…?」
「うん。よかったね。夏美ちゃんが一生懸命描き直したあの表紙。頑張った甲斐があったね」
『ICHIGOぶっく』の表紙は、夏美が一番苦労したところだった。なかなか濱見崎からのOKが出ず、何度も、何度も描かねばならなかった。OKが出た時は、表紙の絵を抱きしめて涙がこみあげてきたくらいだ。
「こんなことって…ある、のね」
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