御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 夏美は、感極まってしまって、それ以上言葉が出なかった。それは隆も同じだったようで、二人で、手を重ねたまま、テラス席から夕日が沈む様を眺めた。

 翌日も沖縄は快晴だった。首里城にも行ったし、ソーキそばも食べた。しかし、大変だったのは、立ち寄った沖縄のデパートで、新生活に向けて、あれもこれもと隆が夏美のために買おうとしたことだった。送料がかかるし、何でも揃ってるでしょうと、夏美が必死で隆を止めなくてはいけなかった。
 そんなこんなで、一泊二日の沖縄旅行を終えて、その週の土日には、夏美は、隆の部屋に引っ越してきた。
 夏美の荷物は少なく、隆が車で夏美の部屋を往復しただけですんでしまった。引越し作業も、あっさりしたもので、半日もかからなかった。
「びっくりするほど、身軽な女性なんだね、僕の奥さんは」
 隆が呆れていると、夏美は笑った。
「これでも、大切にしてる画材とか画集は、捨てたり、減らしたりしてないのよ。でも、他のものには、あんまり執着がないから…」
「そう思って。夏美ちゃん、来てごらん」
 夏美の部屋として空けてくれた部屋に連れて行かれる。促されるままに、その部屋のクローゼットを開けてみる。
「隆さん、これ…!」
 クローゼットの中は、たくさんの女性ものの衣服であふれていた。手に取ると、夏美の好きそうなシンプルなワンピースもあれば、礼服になりそうなきちんとしたスーツまで、様々なものが並んでいた。
「これ全部…私が、着ていいの?」
 隆は目を見開く夏美を見て、嬉しそうに、そうだよ、と言った。
「夏美ちゃん、これから仕事の取材とかも受けるでしょ。そのたびにデパートに行ってたら間に合わないよ。僕の独断で選んじゃったんだけど、気に入ってもらえた?」
 夏美はぶんぶんと頭を振ってうなずいた。
「うん…!どれも着てみたいのばっかり!」
「よかった。その顔が見たかったんだ」
「隆さん、ごめんなさい」
 夏美が声のトーンを低くして言うので隆は慌てた。
「どうしたの?気に入らないの、あった?」
「違うの…こんなにお金を遣わせてしまって…私、隆さんが買ってくれた分稼ぐのにだいぶかかりそう…」
 真剣に思いつめた顔で、夏美が言うので、隆は吹き出した。
「もう。そんなこと気にしないでよ。っていうか、これには交換条件がついてるんだ」
「え、何なに?」
 目をきときとさせて夏美が言う。
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