御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
凄腕の天使
隆の口から牡蠣、という言葉を聞いた瞬間に固めていた決意がくずれてしまった。夏見は牡蠣に目がない。でも、この三年、自分の食卓に並んだことがなかった。節約を重ねる夏美には牡蠣は贅沢品だった。
そうして、隆から牡蠣の店に誘われると理性が抗えず、気がつけば頷いて隆の後ろについてきてしまったのだった。
隆はやって来たウェイターに、牡蠣料理を三品ほど頼み、肉料理やパスタも注文してくれた。手馴れた様子に、ああ女子をエスコートするのに慣れてるんだなあ、と夏美は思った。
「僕ね、牡蠣フライにタルタルソースがかかってなかったら牡蠣フライじゃないと思うんですよ。でも友人は牡蠣フライにソース派で、すごいケンカになりました」
牡蠣料理をつつきつつ、隆はそんな話をしてくれた。思わず夏美も吹き出してしまう。
「確かにそうですね。私も、ソースは許せないですね」
「そうでしょう?よかった。これで安心して料理が食べられます」
隆が敬語を使っているのに、何となく気安さも感じる。イケメンで格好いいのに、気さくな人だ、と夏美は感心した。年齢は夏美より二つ上の二十八歳だったけれど、それ以上の余裕を感じた。
「ところで。あの似顔絵ってずっとやってるんですか?」
ワインも二杯目くらいの頃、隆がそう言った。夏美の気持もほどよく解けてきていた。何となく嘘をつく気になれず、正直に言うことにした。
「はい。えーと、主に給料日前に」
隆が怪訝な顔をしたので、コールセンターのお給料だけだとやっていけないことを打明けた。隆は心配そうに言った。
「そんなにギリギリじゃあ…大変ですね」
「私も、ギリギリにならないように工夫してるんです。ちゃんと何かあってもいいように、五千円くらいはとっておくんです。でも」
隆が続きを促すように頷いた。
「四千円の画集を見つけてしまって…買っちゃったんですよね…」
ぷはっ、と隆が吹きだした。
「ダメじゃないですか」
「絵に関するものにはケチらない、っていうマイルールがあるんです。これは、譲れません」
勢い、自分がイラストレーターを志していることも話の流れで打明けてしまう。
「ああ、それでフルタイムじゃないんですね。なるほどなあ。イラストの仕事はどんな感じですか?」
「持ち込みには行くんですけど…なかなか仕事には結びつきません」
そうして、隆から牡蠣の店に誘われると理性が抗えず、気がつけば頷いて隆の後ろについてきてしまったのだった。
隆はやって来たウェイターに、牡蠣料理を三品ほど頼み、肉料理やパスタも注文してくれた。手馴れた様子に、ああ女子をエスコートするのに慣れてるんだなあ、と夏美は思った。
「僕ね、牡蠣フライにタルタルソースがかかってなかったら牡蠣フライじゃないと思うんですよ。でも友人は牡蠣フライにソース派で、すごいケンカになりました」
牡蠣料理をつつきつつ、隆はそんな話をしてくれた。思わず夏美も吹き出してしまう。
「確かにそうですね。私も、ソースは許せないですね」
「そうでしょう?よかった。これで安心して料理が食べられます」
隆が敬語を使っているのに、何となく気安さも感じる。イケメンで格好いいのに、気さくな人だ、と夏美は感心した。年齢は夏美より二つ上の二十八歳だったけれど、それ以上の余裕を感じた。
「ところで。あの似顔絵ってずっとやってるんですか?」
ワインも二杯目くらいの頃、隆がそう言った。夏美の気持もほどよく解けてきていた。何となく嘘をつく気になれず、正直に言うことにした。
「はい。えーと、主に給料日前に」
隆が怪訝な顔をしたので、コールセンターのお給料だけだとやっていけないことを打明けた。隆は心配そうに言った。
「そんなにギリギリじゃあ…大変ですね」
「私も、ギリギリにならないように工夫してるんです。ちゃんと何かあってもいいように、五千円くらいはとっておくんです。でも」
隆が続きを促すように頷いた。
「四千円の画集を見つけてしまって…買っちゃったんですよね…」
ぷはっ、と隆が吹きだした。
「ダメじゃないですか」
「絵に関するものにはケチらない、っていうマイルールがあるんです。これは、譲れません」
勢い、自分がイラストレーターを志していることも話の流れで打明けてしまう。
「ああ、それでフルタイムじゃないんですね。なるほどなあ。イラストの仕事はどんな感じですか?」
「持ち込みには行くんですけど…なかなか仕事には結びつきません」