御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 夏美はそんな方面から物事を考えていなかったので、一気に青ざめてしまう。
「うん。隆さんが言うように、イラストに専念するようにして正解よ。ちゃんと実績作ってさ、才能も、実力もあるから、結婚しました、って流れを作らないと。そういう怖い女が足ひっぱりにくるよ」
「ええと…よくわからないけど、私がイラスト頑張ればいいんだよね…うん。それなら、できる」
 夏美が握りこぶしをにぎって呟く。
「だいじょうぶかなあ。隆さんに、女の影はないの?結婚したからって安心してらんないよ。隆さんクラスだったら、愛人志願だって絶対いるからね。不倫なんて何とも思わずにやるのがたくさんいるんだから」
「女の影…?今のところ、思いつく人はいないけど…」
 そう言って夏美は首をかしげた。
「気をつけなよね。若奥様。そう言えば、隆さんの方のご両親とは会ったんだっけ」
「イラストの仕事が落ち着いてから、改めて会おうって話になってるの。リリスの社長でもあるお父様にはご挨拶だけでもしたかったんだけど、たまたまタイミングが合わなくてまだ会えてないの」
「そう。結婚って嬉しいけど、色々超えなきゃいけないハードルが出てくるよね。私も来月、何着るか決めなくちゃ」
「え、あずささん、ひょっとして」
 あずさがうふふ、と口角をつりあげた。
「彼が私をご両親に紹介してくれるって。さらに近い内、うちの実家に来て、『お嬢さんを僕にください』をやってもらう予定」
「わあ…!おめでとう!」
 それからあずさと二人、お茶を飲みながら同棲あるあるについて語り合った。夕飯をたべていくよう夏美は誘ったのだが、あずさも彼氏にご飯を作らなくてはいけないので、急ぎ足で帰っていった。
 ベランダから帰っていくあずさの後ろ姿を見送った後、ラタトゥイユを作ろう、とキッチンへ向かった。

 出版記念パーティの日がやってきた。夏美はあずさの助言通り、ミントグリーンのワンピースにパールのネックレスをあしらって装った。隆からとても素敵だ、と言われてほっとした夏美だったが、頭が朦朧としていた。
 実は、朝方まで起きてイラストと格闘していたのだ。昨日の夜には完成してしっかり眠ってパーティに行く予定だったのが、一箇所どうしても気に入らないところがあり、ああでもない、こうでもないとやっていたら朝になってしまった。
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