御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 夏美は、はあ、と溜め息をついた。あからさまに悪意のこもった言い方に、あずさの言葉を思い出す。隆と婚約したことで、敵視されるよ、足を引っ張られるよ、と言っていたけれど、まさしくそのまんまだった。
 誰からも祝福されるなんて思ってなかったけど…今は、キツイな。
 体がもっと元気な通常通りだったら聞きのがせたような言葉も、寝不足とシャンパンの悪酔いで吐き気のする今は聞きたくなかった。
 しかも。最悪の状況は、それだけでは終わらなかった。
 ぱたぱたと足音がした。
「ねえ、ねえ、さっきネット見たんだけど」
 さっきまで夏美の悪口を言っていた二人の連れのようだ。
「…何これ。あの女、枕営業したってこと?うわ。さいてー。やばいじゃん、隆君、やばいのに引っかかっちゃったんだよ」
「お坊ちゃんだからねえ。利用されてたことに気がつかなかったんだよ。それにしてもあの女、したたかな奴だね。素人くさいのも、絶対演技だよ」
 枕営業って…私のこと…?
 吐き気を感じながらも、夏美はバックからスマホを取り出した。何で検索すればいいかわからなかったが、とりあえず「リリス出版」で調べてみる。
 するとすぐにヒットした記事があった。
『児童書の老舗リリス出版の御曹司 中河隆氏は、だまされていた?
 絵本としては異例のヒットとなった「ICHIGOぶっく」書店での売れ行きは順調で、品切れしている店舗も少なくない。
 仕掛けたのは、ベストセラー作家の濱見崎俊也氏。物語は、一人の少女の成長を綴ったもので、苦労を乗り越え幸せになるラストには涙する読者も多いだろう。
 だが、肝心の絵本の絵の方はどうやら賛否両論らしい。シンプルかつ大胆な絵で、若者を魅了しているようだが、年配者にはウケが今ひとつのようだ。
 全世代に読者を持つ抜け目のない濱見崎氏が、なぜそんなヘタを打ったのか?
 実はそこに作画を担当した沢渡夏美に理由があるらしいことを本社はつかんだ。
 なんと、沢渡夏美は、リリス出版の副社長 中河隆氏と事実婚の関係にあるらしい。中河氏と沢渡がつきあいだしたのも、「ICHIGOぶっく」の製作開始時とほぼ同時期。中河氏をよく知るDさんはこう語っている。
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