御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 なんでこんなに正直に喋ってしまうんだろう、と夏美は思った。白ワインに自白剤でも入れられているんではないだろうか。
「ふうん。僕、夏美さんの絵、見てみたいです。見せてもらえませんか?」
 知り合ったばかりの人に、絵を見せてもあまりいい思いをしたことがない。なんとなく煙に巻かれたような感想が返ってくるだけだ。でも何故か、隆はちゃんと意見を言ってくれるんじゃないか、今までの冷やかしのような人達とは違うんじゃないか、そう思ってしまった。
 おずおずと夏美は隆にスケッチブックを渡した。
 中には、似顔絵のお客さんにこんな感じの絵になります、と見せるときの見本が描いてあった。
「これは…ぼくの知っている似顔絵とは違うなあ」
 隆が、スケッチブックの絵をじっくり見つめて言った。夏美は目を見張った。
「そうなんです。よくある似顔絵って私好きじゃなくて。顔の特徴を誇張しすぎるのも嫌だし、けばけばしい色使いも嫌で」
 夏美の似顔絵はとてもシンプルだった。素描と言ってもいいくらいだ。しかし、色味が必要な時はパステルで彩ったりもする。
「あの、イメージは、写真たての横に置けるようなもののつもりなんです。それで、描かれる人の穏やかな顔とか、鏡を見た時のちょっと作った本人のお気に入りの顔なんかを描いてあげたいんです」
「描かれた本人が嬉しくなるような絵なんですね。確かに、自分のキメ顔が絵に描いてあったら、部屋にかざりたくなるだろうな」
 夏美は自分が言いたかったことを理解してもらえて嬉しくなった。
「そうなんです。落ち込んだ時に見たら、ちょっと元気になるような、そんな絵を描いてあげたいんです」
 つい、熱を込めて言ってしまった。イラストレーターの卵であることは、バイト先の仲のいい女子にも言っていない。まだ何にもなれていないのに、名乗るのは違う気がして。でも、こうやって自分の絵について話ができたことが夏美はうれしかったのだ。
 ちょうど折りよく、パスタと肉料理が運ばれてきた。彩の鮮やかなパスタに、香ばしい香りのするステーキ。
「さあ、食べよう。夏美さん、そんなにガリガリじゃよくないよ。しっかり食べて栄養つけてください」
「は、はい。じゃあお言葉に甘えて」
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