御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
「うん。少しだけ、もらおうかな」
 嬉しそうに隆が言うので、夏美は、もう少し肉料理も増やそう、と決意した。
「トシとどんな話したの。あいつ、喋り出したら止まらないから。退屈しなかったでしょ」
「そうね。隆さんの大学時代の話とか聞いちゃった」
 夏美は微笑んでみせたが、少しだけ嘘だった。敏恵が濱見崎の話をするのに夢中で、隆の話はあまり聞き出せなかったのだ。敏恵は、夏美が濱見崎と仕事とはいえ時間を多く過ごしているのがとんでもなく羨ましいらしかった。「濱見崎先生はどんな服着てた?」とか「濱見崎先生の好きな女性のタイプの話とかなかった?」などなど矢継ぎ早に質問された。
 しかも。
「隆はうっかり私のことを濱見崎先生に喋りそうだから、私が濱見崎先生を好きってことは内緒にしておいて!」
と、口止めされてしまった。そのため、敏恵とさっきまでどう過ごしていたか、本当のことが言えない。
 あまり敏恵のことを多く語らない夏美に、隆は不思議に思ったようだった。
「うん?夏美ちゃん、何か言いたいことがあるでしょ」
 どきり、として夏美は目をぱちぱちさせた。トシさんが濱見崎先生のこと好きなの、バレてる?
「ないよ?なんでそんなこと言うの?」
「おかしいな…そういう顔つきの時は、何かあるときなんだよな。わかった!」
 夏美はさらにヒヤリとする。
「夏美ちゃん、これから仕事したいんでしょ」
「え?」
「僕が一緒に寝ないとヤダってまた言うと思って言えなかったんじゃない。違う?」
 夏美は頭の中でほっと胸をなで下した。とりあえずバレてはいないようだ。
「実はそうなの。今日、昼間あんまりイラストが進まなかったから、あと二時間くらいやって寝たいなあって」
 これもあながち嘘ではなかった。どこかで帳尻を合わせて仕事をしなきゃ、と思っていたのだ。
「やっぱり。いいよ。これ食べたらシャワー浴びて寝るから。仕事、しておいで」
「あ、じゃあそのお皿片付けて…」
「いいよ。これもやっておく。目がうつろになるくらいイラストが気になってたんでしょ。寂しいけど、一人で寝まーす」
「隆さん…」
 甘えん坊の隆も可愛いが、こんな優しい言葉をかけてくれる隆も、やはり夏美にはいとおしい。
「ありがとう…じゃ、お言葉に甘えるね」
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