御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
 何度も頭を下げられて、夏美は仕方なく折れてしまった。
「濱見崎先生が御都合悪かったら、遠慮しますからね!」
 そう言って夏美はダメもとの電話を濱見崎にしてみた。コール音が続き、切ろうとした瞬間につながった。
「あれ?沢渡さん?珍しいねえ」
「浜見崎先生。お忙しいところ、申し訳ありません。今、お話ししても大丈夫でしょうか?」
 相手は100万部なんてへっちゃらのベストセラー作家だ。一分一秒惜しいかもしれない。そう思って夏美はきいた。
「うん。大丈夫だよ。ちょうどよかった、筆が進まなくて困ってたんだ」
「珍しいですね。いつも編集者を驚かせるほど執筆が早いのに」
「それがさあ。キャンプのシーンを書いてるんだよね。なかなか進まなくて。やっぱり現場にいかないとダメかもしれないな」
 夏美は目を見開いた。ダメもとでした電話だったが、こんな風にうまく話しが転がってくるとは。このチャンスを逃してはいけない!
「先生!実は、私、先生をキャンプにお誘いしようかと思ってお電話したんです。先日パーティで隆さんが先生に紹介した永川敏恵さん。彼女がいいキャンプ場を知っていて、よかったら先生もどうかと…」
「え、ほんと?そうなんだよね、一人で行っても勝手がわからないし。その人、キャンプに詳しいの?」
 スピーカーオンにして浜見崎先生の言葉を聞いていた敏恵ぶんぶん首を振ってうなずく。夏美も敏恵に了解のサインを出す。
「はい、詳しいそうです」
「そうなんだ。それはいいな。日帰りキャンプでいいんだよね。お嬢さんがたと一緒ならなかなか楽しそうだな」
 なんと。濱見崎とキャンプに行くことになってしまった。敏惠の言うように、ダメもとでやってみるもんなんだなあ、と感心してしまう。濱見崎のスケジュールに合わせて、来週の木曜日の午前中に待ち合わせすることになった。
「じゃあ、決まり…っと、沢渡さん、隆は来ないの?」
 濱見崎が、何気なく言った。
「あ、それが」
 夏美としては、隆がいたらさらに楽しいだろうな、と思う。しかし残念ながら敏恵に止められている。隆が絡むとうまくいかなかった恋が今までもあったらしいのだ。
「それがその、来週忙しいみたいなんです。きっと行けなくて悔しがると思うんですけど」
「そうか。じゃ、何か隆にお土産買ってやらなきゃな。了解。じゃ、来週の木曜日に」
< 64 / 86 >

この作品をシェア

pagetop