御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
蝶子さんの邸宅の庭は広々としていた。三人は、庭に出したパラソル付きの丸テーブルを囲む形で椅子に座っていた。空は晴天で、清々しい秋の日だった。三人の手元に置かれたティーカップからはレモングラスの香りがほんのりしていた。
「あの時はありがとうございました。蝶子さんのおかげで、隆さんと出会うことができました」
夏美は頭を下げて御礼を言った。
あの日、お腹はすいていたけれど、蝶子さんに肉まんをあげていなかったら、隆に出会えていなかった。それは紛れもない事実だ。
「いえいえ。どっちかっていうと隆に御礼を言ってほしいわ。ね、おばあちゃんの目は確かだったでしょう」
「はいはい。おばあちゃんには感謝してます。当分、どこに行くのでもつきあってあげるよ」
「よろしい。じゃ、佐藤先生の華道展に今度、つきあって。夏美さんも、一緒にどう?」
「はい。ぜひ」
もう七十代後半なのに、矍鑠として行動力のある蝶子さんを、夏美は魅力的だと思わずにいられない。自分も年をとったら、蝶子さんのようになりたいと思う。
さあっと気持のいい風が吹いた。蝶子さんが言った。
「いい風ね。ねえ、夏美さん、いい夫婦ってどんなものだと思う?」
唐突にきかれて、夏美はしばらく考え、口を開いた。
「信頼しあってる、とか…」
蝶子はにっこり、笑った。
「そうね。それも大事。でも、私は風のようでありたい、といつも思ってたわ」
「風ですか」
「そう、風のように軽やかにあの人の側にいたかった。あの人っていうのは隆の祖父のことね」
夏美は頷く。隆は目を細めて聞いている。
「夫婦って、色んな役割が求められるわ。ある時は恋人のように、ある時はお父さんになたり、お母さんになったり。兄妹になることだってあるわね」
蝶子がひとくちお茶を飲んだ。
「いつ、何があるのか、わからないのが人生。だからその時々で色んな役割をこなさなきゃいけない。でも、それって楽しいことだと思わない。お芝居だって、主役ばっかりやってたら飽きてしまうわ。時には脇役をやると、いい刺激になる。それまで見えていなかったことが見えてきたりね」
どこかで小鳥がチチチ、と鳴いているのが聞こえた。夏美は蝶子の言葉を噛み締めるように聞いていた。
「おばあちゃん、あのね」
隆が言った。
「僕達、これから婚姻届を出そうと思ってるんだ」
「ほう。それはいいこと」
「あの時はありがとうございました。蝶子さんのおかげで、隆さんと出会うことができました」
夏美は頭を下げて御礼を言った。
あの日、お腹はすいていたけれど、蝶子さんに肉まんをあげていなかったら、隆に出会えていなかった。それは紛れもない事実だ。
「いえいえ。どっちかっていうと隆に御礼を言ってほしいわ。ね、おばあちゃんの目は確かだったでしょう」
「はいはい。おばあちゃんには感謝してます。当分、どこに行くのでもつきあってあげるよ」
「よろしい。じゃ、佐藤先生の華道展に今度、つきあって。夏美さんも、一緒にどう?」
「はい。ぜひ」
もう七十代後半なのに、矍鑠として行動力のある蝶子さんを、夏美は魅力的だと思わずにいられない。自分も年をとったら、蝶子さんのようになりたいと思う。
さあっと気持のいい風が吹いた。蝶子さんが言った。
「いい風ね。ねえ、夏美さん、いい夫婦ってどんなものだと思う?」
唐突にきかれて、夏美はしばらく考え、口を開いた。
「信頼しあってる、とか…」
蝶子はにっこり、笑った。
「そうね。それも大事。でも、私は風のようでありたい、といつも思ってたわ」
「風ですか」
「そう、風のように軽やかにあの人の側にいたかった。あの人っていうのは隆の祖父のことね」
夏美は頷く。隆は目を細めて聞いている。
「夫婦って、色んな役割が求められるわ。ある時は恋人のように、ある時はお父さんになたり、お母さんになったり。兄妹になることだってあるわね」
蝶子がひとくちお茶を飲んだ。
「いつ、何があるのか、わからないのが人生。だからその時々で色んな役割をこなさなきゃいけない。でも、それって楽しいことだと思わない。お芝居だって、主役ばっかりやってたら飽きてしまうわ。時には脇役をやると、いい刺激になる。それまで見えていなかったことが見えてきたりね」
どこかで小鳥がチチチ、と鳴いているのが聞こえた。夏美は蝶子の言葉を噛み締めるように聞いていた。
「おばあちゃん、あのね」
隆が言った。
「僕達、これから婚姻届を出そうと思ってるんだ」
「ほう。それはいいこと」