御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
「はい。蝶子さんに報告してから出したかったんです」
そう提案したのは夏美からだった。隆が入籍はいつにしようか、と相談してくれた時、まっさきに思い浮かんだのが自分たちを会わせてくれた蝶子さんの顔だった。
隆の両親、と夏美の両親、それぞれの顔合わせも、もうすんでいた。隆の両親から反対されないか心配していた夏美だったが、想像以上に隆の両親の対応は柔らかなものだった。リリス出版の社長である隆の父は『ICHIGOぶっく』のファンなんだ、と言って夏美に優しくしてくれた。夏美の両親は、手放しで娘の結婚を喜んでくれた。非の打ち所のない隆がやってきて、どうぞどうぞと娘を差し出さんばかりだった。
蝶子さんは口元に笑みを浮かべて言った。
「よろしい。人生は、いい方に考えたらいい方へ向かうものよ。二人でそれを味わって。隆、私が呼んだら、フロリダだろうが、イギリスだろうが、すぐに来るのよ。いいわね」
「肝に銘じてます」
隆が恭しく言う。
「二人とも。どんな時も、私という味方がいることを忘れないでね。私だって飛んでいく覚悟があるわよ。さて、秋の風は存分に味わったから部屋に戻るとするわ」
そうやって立ち上がりショールの前を合わせた蝶子さんの佇まいは貴婦人のそれだった。
夏美は、いつか蝶子さんの絵を描こう、と心に決めた。
「呆気なく受理されたね」
市役所からの帰り道、歩きながら隆が言った。つい今しがた、婚姻届を市役所に出してきたのだ。
「うん。そういうものだとは思ってたけど」
すると、隆がふっと笑った。どうしたの、と夏美がきく。
「いや、婚姻届の準備がすごく早くできてたなあ、と思い出して」
「あれはね。あずささんから聞いてたの。すぐに出せるように準備しておくのが大事よって」
夏美は、あずさたちカップルに、婚姻届の証人の欄を書き込んでもらっていた。もちろん自分で書く欄も埋めていた。なので、隆から話が出た時には、もう隆が記入するだけの婚姻届ができあがっていたのだ。
「なかなか手回しのいい奥さんで困っちゃうな」
「そう?もっとこれから困らせるかもよ。隆さんを」
「勘弁してよ。お互いワーカホリックで危ないんだから。…でも、実は心配してないんだ」
隆は夏美の手を握った。
「うん。…私も」
これから先の人生に何が待っているかわからない。
でも、二人ならきっとうまくいく。風のようにありたい、と夏美もまたそう思うのだった。
そう提案したのは夏美からだった。隆が入籍はいつにしようか、と相談してくれた時、まっさきに思い浮かんだのが自分たちを会わせてくれた蝶子さんの顔だった。
隆の両親、と夏美の両親、それぞれの顔合わせも、もうすんでいた。隆の両親から反対されないか心配していた夏美だったが、想像以上に隆の両親の対応は柔らかなものだった。リリス出版の社長である隆の父は『ICHIGOぶっく』のファンなんだ、と言って夏美に優しくしてくれた。夏美の両親は、手放しで娘の結婚を喜んでくれた。非の打ち所のない隆がやってきて、どうぞどうぞと娘を差し出さんばかりだった。
蝶子さんは口元に笑みを浮かべて言った。
「よろしい。人生は、いい方に考えたらいい方へ向かうものよ。二人でそれを味わって。隆、私が呼んだら、フロリダだろうが、イギリスだろうが、すぐに来るのよ。いいわね」
「肝に銘じてます」
隆が恭しく言う。
「二人とも。どんな時も、私という味方がいることを忘れないでね。私だって飛んでいく覚悟があるわよ。さて、秋の風は存分に味わったから部屋に戻るとするわ」
そうやって立ち上がりショールの前を合わせた蝶子さんの佇まいは貴婦人のそれだった。
夏美は、いつか蝶子さんの絵を描こう、と心に決めた。
「呆気なく受理されたね」
市役所からの帰り道、歩きながら隆が言った。つい今しがた、婚姻届を市役所に出してきたのだ。
「うん。そういうものだとは思ってたけど」
すると、隆がふっと笑った。どうしたの、と夏美がきく。
「いや、婚姻届の準備がすごく早くできてたなあ、と思い出して」
「あれはね。あずささんから聞いてたの。すぐに出せるように準備しておくのが大事よって」
夏美は、あずさたちカップルに、婚姻届の証人の欄を書き込んでもらっていた。もちろん自分で書く欄も埋めていた。なので、隆から話が出た時には、もう隆が記入するだけの婚姻届ができあがっていたのだ。
「なかなか手回しのいい奥さんで困っちゃうな」
「そう?もっとこれから困らせるかもよ。隆さんを」
「勘弁してよ。お互いワーカホリックで危ないんだから。…でも、実は心配してないんだ」
隆は夏美の手を握った。
「うん。…私も」
これから先の人生に何が待っているかわからない。
でも、二人ならきっとうまくいく。風のようにありたい、と夏美もまたそう思うのだった。