御曹司は天使クラス ~あなたのエールに応えたい~
「あの、美人風に描いてください!」
さっと椅子に座った三人組のトップバッターの子がそう言った。夏美はくしゃっと笑った。わざわざ言わなくても、ちゃんと美人ですよ、と言ってあげたかった。
その思いを乗せて、ペンを走らせる。
二時間後。
最後のお客さんは女子高生だった。塾の帰りに買い食いしてるところを、隆に声をかけられていた。お金ないし、という声が聞こえたので、夏美は千円でいいですよ、と言ってあげたのだ。最後だし、高校生の千円は大金だから。
「わあー、嬉しい!これ、部屋に飾るね、お姉さん。ありがとう!待った甲斐があった!」
女子高生は夏美にハグしてきた。こちらこそありがとう、とその子の背をぽんぽんしてやる。絵を抱えたまま、通りの向こうの信号を渡りきるまで、その子は夏美と隆に手を振っていた。
喜んでもらえてよかった。夏美はものすごく満たされた気持になっていた。
それにしても。
「つ、つかれた~」
思わず、声に出して言ってしまう。何しろ、ぶっ通しで二時間、似顔絵を描きまくったのだ。頭がオーバーヒートして、ふらふらだ。
「お疲れ様。画伯、なかなか稼ぎましたね」
疲れをみじんも感じさせない声で、隆が言った。次の瞬間、ひやっとするものが頬に触れた。いつの間に買ってきたのか、キンキンに冷えた缶ビールだった。
「ありがとう…九十九パーセント、隆さんのおかげです」
「そんなこと、ないよ。画伯の描いた絵、大好評だったじゃない。あの絵の魅力に、やっと気づいたか、って僕の方が誇らしい気がしたよ」
夏美は口元が緩んだ。うまいこと言うなあ、と感心しながらビールをいただく。冷えた液体と苦味が一気に押し寄せてくる。
「…くぅ」
「ふふ。労働の後のビールは美味しいね。さて、お楽しみの会計報告です」
ばさっとコートのポケットから、隆が分厚い千円札の束を取り出した。疲れていたはずの夏美の頭が現金にしゃきっとする。
「じゃじゃーん。なんと、3万8千円!!」
「嘘…!!」
今日、何度夏美はこう言ったことだろう。隆にご馳走をおごってもらって、お客さんが感激した姿を見せてもらって、さらにこんなに稼がせてもらった。
「それ…いらない。隆さんに、全部あげる。隆さんがもらうべき!」
そのお金がもらえることよりも、自分が稼いだ、と思えたことの方が嬉しかった。
さっと椅子に座った三人組のトップバッターの子がそう言った。夏美はくしゃっと笑った。わざわざ言わなくても、ちゃんと美人ですよ、と言ってあげたかった。
その思いを乗せて、ペンを走らせる。
二時間後。
最後のお客さんは女子高生だった。塾の帰りに買い食いしてるところを、隆に声をかけられていた。お金ないし、という声が聞こえたので、夏美は千円でいいですよ、と言ってあげたのだ。最後だし、高校生の千円は大金だから。
「わあー、嬉しい!これ、部屋に飾るね、お姉さん。ありがとう!待った甲斐があった!」
女子高生は夏美にハグしてきた。こちらこそありがとう、とその子の背をぽんぽんしてやる。絵を抱えたまま、通りの向こうの信号を渡りきるまで、その子は夏美と隆に手を振っていた。
喜んでもらえてよかった。夏美はものすごく満たされた気持になっていた。
それにしても。
「つ、つかれた~」
思わず、声に出して言ってしまう。何しろ、ぶっ通しで二時間、似顔絵を描きまくったのだ。頭がオーバーヒートして、ふらふらだ。
「お疲れ様。画伯、なかなか稼ぎましたね」
疲れをみじんも感じさせない声で、隆が言った。次の瞬間、ひやっとするものが頬に触れた。いつの間に買ってきたのか、キンキンに冷えた缶ビールだった。
「ありがとう…九十九パーセント、隆さんのおかげです」
「そんなこと、ないよ。画伯の描いた絵、大好評だったじゃない。あの絵の魅力に、やっと気づいたか、って僕の方が誇らしい気がしたよ」
夏美は口元が緩んだ。うまいこと言うなあ、と感心しながらビールをいただく。冷えた液体と苦味が一気に押し寄せてくる。
「…くぅ」
「ふふ。労働の後のビールは美味しいね。さて、お楽しみの会計報告です」
ばさっとコートのポケットから、隆が分厚い千円札の束を取り出した。疲れていたはずの夏美の頭が現金にしゃきっとする。
「じゃじゃーん。なんと、3万8千円!!」
「嘘…!!」
今日、何度夏美はこう言ったことだろう。隆にご馳走をおごってもらって、お客さんが感激した姿を見せてもらって、さらにこんなに稼がせてもらった。
「それ…いらない。隆さんに、全部あげる。隆さんがもらうべき!」
そのお金がもらえることよりも、自分が稼いだ、と思えたことの方が嬉しかった。