僕らの紡いだ音!
「はーい。じゃあ、視線こっちねー!」
そう言われて視線だけをカメラに向けた。
(撮影はそんなに得意じゃないけれど、社長や綾乃さんもいるから頑張らないと。)
そう思いながら、笑顔を向けていた。
「はーい、SINOちゃんいいわよー。お疲れさまー!」
1時間たってようやく終わった撮影。
カメラさんに挨拶をして綾乃さんと社長さんのもとへ行った。
「お疲れさま、SINO。」
そう言いながら、綾乃さんはタオルを渡してきた。
「ありがとう、綾乃さん。」
「綾ちゃーん、社長さーん。こんな感じでどうかしら!?」
そう言われて社長と綾乃さんがカメラさんのもとへ向かっていった。
そして何か話しているようだったので、外に行く旨を話してスタジオを出た。
「う~ん。」
ぐっと背伸びをして体をほぐした。
屋上にはほかに人がいなくて楽になれた。
フェンス越しに街並みを見ていた。
(あの時ほど、感動を覚えなくなったな。)
空は何処までも青いのに、雲一つないのに、私の心はいつも曇天模様だ。
あの時から、ずっと…。
「……ずっと君がいてくれたから……この世界は美しかったのに…」
何気なく歌ったのは、『SINO』という未完成曲だ。SINOが死ぬ直前に書いた曲。
一度も歌われることなく終わってしまった曲。
(帰らないと…。)
そう思って後ろを振り返った。
「あれ~、君一人?俺たちとちょっと遊ばない?」
ガラの悪そうな3人組が入ってきた。
(最悪…。)
ひとりでどうにかできなくはないけれど、騒ぎは起こしたくないため無視することにした。
しかし、行く手を阻むように前に立たれた。
「ねぇ、聞こえてる~?俺らとあそぼ―?」
「予定があるので無理です。」
そう言って屋上から出ようとした時、後ろから腕をつかまれた。
「じゃあ、少しでいいからさ~。」
「……放してください。」
「えー、じゃあ、俺らと遊んでくれる?」
「嫌です。」
「一人さみしそうにしてたじゃん。俺らが慰めてあげるよ?」
「結構です!」
そう強めに言っても3人は解放してくれなかった。
正直、イライラしてくる。
腕を振りほどこうにも力が強くてかなわない。
そのあとも、どれだけ話しても解放してくれなくて少し怖くなった。
(…シノ…助けて…。)
そう思って目をつむった時―
「いででででで!」
腕が解放され、背中を引っ張られた。
「え…?」
見ると、ほかの2人は倒れていて、腕をつかんでいた男はひねられていた。
「女の子に乱暴しちゃだめだよ?」
そう後ろから声が聞こえて首だけ振り返った。
「あ…。」
後藤さんだった。男を抑えてるのは社長だった。
「SINO、大丈夫?」
そう聞いてきたのは綾乃さんだった。
「……。」
恥ずかしかった。一人で何もできなくって。
「す、すんませんでしたー!」
そう言って男たちは去っていった。
みんなに何か言わないといけないと思っても何も言えなかった。
「SINO、けがはない?」
そう聞かれて小さく頷いた。