匣庭 -ハコニハ-
背後と言っても正確には左後ろだったような…とゆっくり振り返った。私ははっとした。

私の背後には無機に窓と部屋、そして私を照らす月がいた。えも言われぬ美しさに私は恍惚とした。

「こんな、こんなにも美しいものが"まだ"あったとは…。」

ただ、月の美しさに酔い始めた頃、私は先程の発言に違和感を持った。

("まだ"とは…一体…)

なんともいえない感情になったところ、右手側から、

"ガコン"

とキャビネットから音が聴こえた。
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