婚約破棄した相手が毎日謝罪に来ますが、復縁なんて絶対にありえません!
 最初はみんな、サーラと同じように自分の身の廻りのことさえ覚束ないような状態だったらしい。だから、ここには雑用をしてくれる壮年の男性がひとりいる。ウォルトという名で、穏やかな優しい人だった。
 サーラも最初は厨房にある器具の使い方がまったくわからず、彼に色々と教えてもらった。
 でもそんな彼だって、修道院の敷地と厨房に出入りするだけで、けっして内部には足を踏み入れない。
 それなのに、堂々と修道院の中にあるサーラの部屋にまで入り込んできたカーティスに、思わず深い溜息をついてしまう。
(やっぱり自分本位なのは、変わっていないのね)
 たとえ王太子であろうと、守らなくてはならないルールは存在する。でも今の彼が、それを理解することはないだろう。
 言いたいことはたくさんあるが、婚約者でもないカーティスの間違いを正すのはサーラの役目ではない。ただ黙って立ち去ってくれたら、それでいい。
 でも、少しだけ気になることはある。
 なぜ、今になって謝罪してきたのか。
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