冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
突然の結婚
「――たしかに俺たちは籍を入れた。だが、俺は君となれ合うつもりはない」
初めて足を踏み入れたマンションは、その奥がどうなっているかも想像できないほど広くて豪華だった。生まれてからずっと母とふたりで暮らしてきた1LDKのアパートとは、なにもかも大違いだ。
リビングには黒い革張りのソファーが置かれていたが、私が促されたのはそこではなかった。当然だ。歓迎されていないと、はじめからわかっていた。
言われるまま、ダイニングテーブルの椅子に浅く腰を下ろした。しかし、家主である彼は座ろうとはしない。
俯きがちにチラリと視線を上げれば、整った精悍な顔はいかにも不機嫌そうで、慌てて下を向いた。
視線を合わせてしまえば、彼をさらにいらつかせてしまいそうだ。だから、俯いていても咎められはしないだろう。
私より頭ひとつ分以上背の高い彼は、立っているだけでもかなりの圧を感じるというのに、見下ろされていればさらに迫力がある。
ただ、こうして視界に入らないようにしていれば心は次第に落ち着きを取り戻し、彼の言葉を理解できる程度にはなってきた。
「不本意だが、籍を入れた以上ここに同居するのは許可する。が、夫婦として過ごすつもりはない。親は跡取りだなんだと言うが、継がせたい相手はもういるからその必要もない」
私たちの結婚は、突然決められたものだ。彼と顔を合わせるのも、入籍した今日が二回目。一度目は顔合わせの席だった。
そういえば直接言葉を交わすのもこれが初めてだと、今さらながらに気がついた。とはいえ、一方的に話を聞いているだけだ。交わしているとは言えないかもしれない。
この人が緒方一矢という名前で、たしか年齢が三十四歳だとは知っている。それから、数々の難しい手術を成功させてきた優秀な外科医で、大病院の跡取り息子ということも。
でも、ほかはなにも知らない。
初めて足を踏み入れたマンションは、その奥がどうなっているかも想像できないほど広くて豪華だった。生まれてからずっと母とふたりで暮らしてきた1LDKのアパートとは、なにもかも大違いだ。
リビングには黒い革張りのソファーが置かれていたが、私が促されたのはそこではなかった。当然だ。歓迎されていないと、はじめからわかっていた。
言われるまま、ダイニングテーブルの椅子に浅く腰を下ろした。しかし、家主である彼は座ろうとはしない。
俯きがちにチラリと視線を上げれば、整った精悍な顔はいかにも不機嫌そうで、慌てて下を向いた。
視線を合わせてしまえば、彼をさらにいらつかせてしまいそうだ。だから、俯いていても咎められはしないだろう。
私より頭ひとつ分以上背の高い彼は、立っているだけでもかなりの圧を感じるというのに、見下ろされていればさらに迫力がある。
ただ、こうして視界に入らないようにしていれば心は次第に落ち着きを取り戻し、彼の言葉を理解できる程度にはなってきた。
「不本意だが、籍を入れた以上ここに同居するのは許可する。が、夫婦として過ごすつもりはない。親は跡取りだなんだと言うが、継がせたい相手はもういるからその必要もない」
私たちの結婚は、突然決められたものだ。彼と顔を合わせるのも、入籍した今日が二回目。一度目は顔合わせの席だった。
そういえば直接言葉を交わすのもこれが初めてだと、今さらながらに気がついた。とはいえ、一方的に話を聞いているだけだ。交わしているとは言えないかもしれない。
この人が緒方一矢という名前で、たしか年齢が三十四歳だとは知っている。それから、数々の難しい手術を成功させてきた優秀な外科医で、大病院の跡取り息子ということも。
でも、ほかはなにも知らない。
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