冷徹外科医と始める溺愛尽くしの政略結婚~不本意ながら、身代わりとして嫁ぎます~
「行きたいところはあるか?」

 あれやこれやと、凛が話してくれたお出かけスポットが思い浮かぶ。でも、そのどれもが大人の一矢さんには合わない気がしてしまう。当たり前だ。彼女と話していたのは高校のときなのだから。成人した男女がデートで行くような場所など、私には思いつきもしない。

「念のため、聞いておくが……デートは初めてだよな?」

「え?ええ……」

 突然なんだと一矢さんを見れば、それはもう嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「またひとつ、俺が優の初めてをもらえるんだな」

〝また〟と言われて、先日彼に初めてを捧げた事実を思い浮かべてしまい、思わず赤面した。

「じゃあ、初心者の優に合わせて、そうだなあ……水族館なんてどうだ?」

「行ってみたいです!!」

 間髪入れずに返すと、一矢さんは満足そうに頷いた。

「それから、ショッピングに行って、カフェでケーキを食べて……」

 次々と飛び出すお出かけ先に驚いた。まるで一矢さんの中にはリストでも出来上がっているようだ。それもすごく長いものが。

「一日で、そんなには無理では……」

「だな。優にいろいろな体験させてやりたくて、つい焦ってしまう。これからたくさんの時間を一緒に過ごしていくんだ。ひとつずつ、一緒に楽しんでいこうな」

 未来を約束してくれる言葉は、私を安堵させてくれる。入籍している私たちが引き離されるなんて、そうそうないとわかっている。それでも、こうして言葉や態度で示してくれると、ほっとするものだ。

「おやすみ、優」

「おやすみなさい」

 明日はどんな楽しい一日になるのだろう。そんな期待に胸膨らませながら、温かい腕の中で眠りについた。

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